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  宮中祭祀における重要な神事の一つに 四方拝というものがある。   天皇が毎年元日の早朝に四方を拝し 年災消滅、五穀豊穣を祈る宮中祭祀のことだ。       四方と天地に向かって 天皇は、  
  • 賊寇之中過度我身(ぞくこうしちゅうかどがしん)
  • 毒魔之中過度我身(どくましちゅうかどがしん)
  • 毒氣之中過度我身(どくけしちゅうかどがしん)
  • 危厄之中過度我身(きやくしちゅうかどがしん)
  • 五急六害之中過度我身(ごきゅうろくがいしちゅうかどがしん)
  • 五兵六舌之中過度我身(ごへいろくぜつうしちゅうかどがしん)
  • 厭魅之中過度我身(えんみしちゅうかどがしん)
  • 萬病除癒、所欲随心、急急如律令(まんびょうじょゆ、しょよくずいしん、きゅうきゅうにょりつりょう)
というように祈りを捧げる。     どういう意味かというと、

この世のすべての困難、厄災は

我が身を通してください

  と世界の安寧を祈るというもの。       私はこれを初めて知ったとき、 「なんて国に私は生まれたのだろうか」と 自分の国と血に誇りを感じた。         そして、私も四方と天地に向かって 同じように四方拝をやってみた。     東の方角から両親や先祖を 一人一人、心に浮かべて 困難をすべて引き受けますと唱える。   西に向かって 夫、子ども、兄弟、親戚の 一人一人を浮かべ唱え、   南に向かって これまで私に師事してくださった方を浮かべ   北に向かって 友人、仲間を思い出せる限り皆。     天は太陽や月、空気、宇宙、空 地は地球、大地、自然、山や川や雨     それらすべての困難や厄災を背負いますので 世界が平和でありますよう...と祈った。         なにか、そこから不思議なことに 人生はみるみる好転していき 逆にトラブルや困難からは縁遠くなった。           そんな経験があって、 2025年の元日に新作を上演することが決まったとき 四方拝をコンセプトにした作品を作ろうという話になった。           作品を作っていく中で思い出されたのは、 母の寿命を祈りと踊りによって伸ばしたときのことだった。         私はそこから、 神のような万物を統べるものは 本当に存在するかもしれないと思うようになったし       祈りや踊り、芸術の可能性の大きさも 身に染みて強く信頼するようになった。             18歳。 母は、余命1ヶ月を宣告された末期がん患者で 宣告された日から1年後...   いよいよ命の灯火が完全に消えかかって 危篤状態にあった。           その頃、 私の弟たちはまだ子どもで 小中学生だったから   私は弟たちが母を失ってしまうことに とても耐えられなかった。       医師より 「今すぐ、亡くなられてもおかしくない状況にあります。 延命を続けることは可能ですが、 意識を取り戻し、元のようになる可能性は ほぼないと思った上でどうされますか?」 と私は深夜の病院で話を聞いていた。     あぁ、ついにこんな日が来てしまったかと 思うと同時に 私の心は決まっていた。         一年間、母と何度も話し合ってきた。 「ママがもう本当に死ぬかも」 ってなったそのとき。   私たちはどうするか、ということを。       母は 「誰もがもうママはダメだと言っても、 冬佳だけはママを信じて最期まで 諦めないでいてほしい。 必ず、戻ってくるから」 と言っていた。         だから私は医師に向かって毅然とした態度で 「母と、このときが来たらどうするかについて 話し合ってきました。 『母は最期まで諦めないでほしい』と言っていたので できる限りの処置を最期までどうかお願いします」   そう言って、 私は病院の外に出て行った。         外の空気が吸いたくなったのだ。       夜中の病院は非常口灯の緑の灯りが 長い廊下を照らし 静かなのにざわめいているような不思議な空間だ。       絶望的な窮地に立たされているのに 心の中も頭の中もやけに静かで 冴え冴えとしている。         冬の空を見上げたとき 頬に温かい水が流れ落ちていることに気づいた。       あぁ、私、泣いているの? 泣いていることを認知した瞬間 ダムが決壊したかのように 冷たいアスファルトの上に膝から崩れ落ち 声をあげて泣き叫んだ。           抱えきれないほどに 胸も頭もいっぱいだった。             ひとしきり泣き、 煙草に火をつけた。           くゆる煙が空に上がっていくのが とてもゆっくりに見えた。       こんなふうに 私も煙になって天に直談判にいけたらな。               ボーッとしながら母の病室に戻る。 母のベッドの周りには点滴を吊るす棒が 8本も並んでいる。         そして、部屋の四隅には黒く重厚な 甲冑のようなものを身につける人影が見える。 彼らが噂に聞く「死神」なのだろう。           私はそこから、病室内の洗面台で顔を洗った。 そしてメイクをして、髪を結った。       頭の中に流れる音楽に合わせて 踊り始めた。             朝になる。       また顔を洗い、メイクをし、髪を結い直して そして、踊る。         来る日も来る日も、 7日間寝ず食わずで踊り続けた。            

神さま、仏さま、ご先祖さま

じいじ、誰でもいいから

 

私の願いを聞いてください。

   

これから先の私の喜びも幸せも

私の身体も何もかもを捧げます。

 

だから母の寿命をあと一年だけください。

     

私の先祖が背負ったカルマがあるなら

私はその役目をすべて背負います。

 

この世の人間の罪も全部背負います。

だからお願いします。

        そう強く強く思いながら ひたすら踊り続けていた朝に 遠くから鈴のような、琵琶のような 不思議な音色が聴こえてきた。       神さま御一行がついにきたと思った。         そんなことを 「四方拝 天」という作品にした。         きっとあれは三千世界だったのだろう。 母は息を吹き返し そして私はその後、精神の難病に罹り おかしな世界を彷徨った。       私は弟のために母の寿命を伸ばしてもらったわけだが 見事に私は強制隔離入院となり母の世話は 弟たちがしなくてはならない一年間になった。     本当にちょうど一年。 母は、生きた。           あまり神とか仏とか宇宙人とか、 そういった類の者たちにとっては 生きることも死ぬことも大差なく よくわからない感情なのだろう。         四方拝 天 より
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四方拝 天地について

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2024/8/20    ,

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