私は、過去に膝蓋骨(膝のお皿)を粉砕骨折したことがあり、今も私の左の膝のお皿は大量の針金と釘でできています。
真上からお煎餅を粉々に割ったみたいなレントゲン写真で、粉々になった骨の破片を針金と釘でグルグルに一つにまとめるという手術をしました。
術後すぐからリハビリを始めました。
腱や筋肉、骨が癒着する前に膝の可動域をとっていくためです。
膝のお皿は太ももと膝下を繋ぐ中継ポイントなので、ここが断裂すると、上下に皿が持っていかれて脚は全く動かせなくなりました。
太ももの力が全く伝わらなくなる経験は本当に信じられず、立てること自体の奇跡。
シンプルに「立てない」という経験に驚きが隠せず、もっというと人体の不思議、精妙さ。こんな小さな丸い骨ひとつの働き...私の知らないところですべてが必要なものでできている人間の身体の凄さを知りました。
このリハビリは出産の痛みをはるかに超えていて、何度も気絶しました。
最初は理学療法士さんが病室のベッドまできてくれて、術後すぐの私の脚の曲げ伸ばしをやってくれていたんですけど、あまりの痛さに発狂と気絶をくりかえし、それでも止めてくれないから先生のお尻を無意識に強く摘んでしまいました。
若い男性の理学療法士さんだったと思うけど...先生も「ぎゃーーーーー!!」と叫んで飛び上がってました。
次からは、先生は病室に来なくなり、その代わりに強制的に膝の曲げ伸ばしをする拷問機械がベッドにドンと置かれ、私の脚は拷問機械に拘束されました(泣)
膝を手術した傷口はまだホチキスのようなもので止められていて、膝を曲げるたびに傷口がメリメリ開くわけですが、そっちの痛みよりも骨の痛みが数万倍痛く、私の人生の中で過去一番痛かった出来事です。
しかし、このリハビリをこの段階でしっかりやらないと、膝の可動域が10%以下に制限されるという後遺症が残ってしまうと説明を受けました。
膝を伸ばせない、膝を曲げられない、歩行が困難になり、踊るなんてもってのほか。
「ダンサーなんですね...残念ですが踊りは諦めてください」と医者に通告されました。
だけど、
「いや、必ず復帰して私は踊らねばならない使命を持って生まれてきているので、先生必ず元に戻してください。私、頑張りますんで」
と自らそういえば宣誓してしまったことを後悔しました。
だから、あんなに拷問のようなキツいリハビリだったのか、と。
脚は、パンツが履けないくらい腫れ上がり、血でカンカンに熱を持っていて、自分でも本当に見るのもキツいわ。夜も痛み止めなんて効かず「頼むから全身麻酔を打って寝かせてくれーーー」と泣き喚いてました。
あまりに私がうるさいから「静かにしなさい!!」と看護師さんにガチギレされましたけど、私は結構痛みに強い方なんですよ?あれはもう、普通の人、絶対耐えられない痛みだと思う。
あれから10年。
私の脚は、言わなきゃわからないくらい(言っても信じてもらえないくらい)まで全回復しました。強烈なリハビリを何度も気絶しながらでも、発狂しながらでも、根性でふりしぼって泣きながら続けたおかげで、可動域も通常のそれまで全快。
ただいざ踊ってみると、片足での着地には耐えきれず、膝カックンされたみたいに落ちてしまう。膝立ちは皮膚にワイヤーや釘が当たってすごく痛いなど、できない振りもいくつかあります。何とかかんとか工夫した自分なりの魅せ方を研究してステージに立ってきました。
それから、今一度身体の使い方を丁寧に見直すために、アレクサンダーテクニーク、古武術、ジャイロキネシス、ピラティス、野口体操...などなどほぼすべてと言ってもいいくらいその道のプロフェッショナルの門を叩き、プライベートレッスンで繰り返しリハビリを続けてきまして。
このユニークな身体になった私のままでも、もっと魅力的にテクニカルに踊れる方法はないかと探究と実践を積み重ねてきたことで、今は片足の着地もフロアワークもできるようになってきた。ピンチをチャンスに変えて、むしろ個性として唯一無二のダンサーになったんじゃないかと思います。
加えて、間に4度の妊娠、出産、復帰をしているので、自分の身体の理解とコントロール力はものすごく深まった気がします。
札幌から帰ってきて、強く心に決めたことがある。
現役以上の身体をつくること
踊れる身体にはなっているけど、自分の納得がいく身体ではない。怪我や経産婦であること、年齢などを言い訳に、この数年間自分の中の極みにはチャレンジしていないことに気がついた。それに何の意味があるかなんて、私だけの自己満足だけど、でも私は私に納得できる踊りを踊れていない。
これだけの人間の器、精神性、情緒、感性、表現力、オーラ、舞台度胸、嗅覚を培ってきて、もうあとはいよいよ本当に身体性だけなんだっていい意味で割り切れた。
頑張る!というより、やらせてほしい、やらせてくれ!私に踊らせろ!という衝動が突き上げてきている。
膝のリハビリも再開します。